映画を観ていると、登場人物がアップで映し出されたり、広い風景が映されたりするシーンを目にすることがよくあります。でも、どうしてこのシーンではキャラクターの顔がクローズアップされているのか、逆に広い景色が映し出されているのか、考えたことはありませんか?
実は、これらの「カメラショット」と呼ばれる映像技術には、物語の進行や感情を視覚的に伝える力が隠されています。たとえば、クローズアップ(CU)でキャラクターの顔を映すことで、その人物の心情や緊張感を強調したり、ロングショット(LS)を使うことで登場人物の孤独感や環境に対する距離感を表現したりすることができます。
今回は、映画制作の中で使われるカメラショットの基本について、わかりやすく解説します。
これを学べば、今後映画を観るたびに、シーンがどんな意味を持っているのか、もっと深く理解でき、もっと楽しめるようになります!
さあ、あなたも映画の中に隠された「ショットの魔法」を探してみましょう!

ショットの基本とは?
映画でよく使われる「ショット」とは、カメラが捉える映像の単位です。つまり、カメラが「どこを」「どのように」映すかを決める、映像表現の基本的な要素です。映画では、このショットを巧みに使い分けることで、登場人物の感情やシーンの雰囲気を視覚的に伝えることができます。
例えば、アクション映画では、広い範囲を一度に映すロングショット(LS)が使われることが多いです。これにより、戦闘の規模感や登場人物同士の距離を視覚的に表現できます。一方で、ドラマ映画では、キャラクターの内面を深く掘り下げるために、クローズアップ(CU)が使われることがよくあります。このショットは、登場人物の表情や微細な感情を強調するため、観客に強い印象を与えます。
つまり、ショットはただ映像を切り取るだけではなく、物語をどう見せるか、感情をどう伝えるかの「秘密の武器」とも言えます。同じ場面でも、ショットの使い方によって、全く違う印象を与えることができるんです!
ここでは、基本的なショットを紹介していきたいと思います!
では、どんなショットが使われているのか、さっそく見ていきましょう!
舞台を築くエスタブリッシングショット
映画におけるエスタブリッシングショットは、シーンや物語の舞台を「設定」するために使われます。登場人物の位置関係や、物語の舞台、時間や場所、さらには物語が進行するためのコンテクストを観客に伝える役割を担っています。言い換えれば、「今、どこにいるのか?」「何が起きているのか?」を明示するショットです。
エスタブリッシングショットは、映画の舞台や環境が登場人物に与える影響を強調する重要な手段でもあります。外観だけでなく、室内の風景や小道具の配置もこのショットに含まれることがあります。例えば、ある部屋の全景や長い廊下を映すことで、その場所がキャラクターに与える影響や、その空間の性格(暗い、明るい、広い、狭いなど)を視覚的に伝えることができます。
物語がどこで展開するのか、どんな時間帯なのか、どんな雰囲気なのかを最初に観客に伝えるため、エスタブリッシングショットは非常に重要です。このショットがなければ、観客は突然物語に放り込まれたように感じ、次に何が起こるのか分からずに混乱することになります。逆に、エスタブリッシングショットがしっかりと機能していれば、物語に没入しやすくなります。映画の冒頭ではもちろん、シーンの途中で舞台を変えた時にも再び登場することがあります。

例えば、こちらのロゴには見覚えがあるのではないでしょうか。『フレンズ』ではお馴染みの、ニューヨークのカフェ「セントラル・パーク」です。このカフェは、登場人物たちが頻繁に集まって会話を交わす場所として、シリーズ全体を通して重要な役割を果たします。カフェの外観や周囲の景色を映すことで、その後のシーンがどこで起こるのかを視聴者に示し、物語の舞台を確立します。
舞台を魅せるロングショット
ロングショットは、映画においてキャラクターや物語の舞台を広く、全体的に見せるためのショットです。このショットは、観客に物語の「大枠」を伝えるために使用され、人物や物体の全身が画面に収まり、周囲の環境や背景までしっかりと見せることで、視覚的に空間を広げます。キャラクターが小さく見え、周囲の環境が広く映る構図と考えてください。
このショットの魅力は、キャラクターがどんな世界に生きているのか、その「環境との関係性」を視覚的に伝えられることです。孤独、壮大さ、疎外感、あるいは自由。そういった感情を、言葉に頼らずとも効果的に表現することができるショットです。
特徴としては、その広がりです。キャラクターや物体が画面の中で小さく描かれ、背景や周囲の環境が大きく強調されるため、物語の舞台や状況がキャラクターに与える影響を強調することができます。
ロングショットでは、画面の大部分を環境や背景で埋めることで、登場人物の位置や動きがどれだけ広がり、開放感を持っているかを強調します。この時、人物は画面の下4分の1ほどに小さく描かれることが多いです。例えば、キャラクターが広大な風景の中で歩いているシーンでは、人物の小ささと周囲の広がりが対比され、その孤独感や圧倒的な状況を強調することができます。
また、ロングショットを使う時には、前景や背景の使い方も重要です。例えば、手前に何か物体を配置して、奥行き感を強調することで、視覚的に映画の世界観が深く感じられるようになります。

『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002)より。
ガンダルフ、アラゴルン、レゴラス、ギムリの4人がエドラスへ向かって草原を駆けるシーンです。広大な自然と人物のスケール差が際立ち、「旅の壮大さ」と「キャラクターの小ささ」が視覚的に表現されているのがわかります。圧倒的なスケールの中にドラマを感じさせます。
キャラクターを捉えるフルショット
フルショットは、キャラクター全体が画面に収まり、全身がしっかりと映し出されるショットです。このショットは、キャラクターの外見や動きを明確に示しつつ、その人物が置かれている環境との関係をも見せるために使用されます。人物が画面内でほぼ完全に映るため、その行動や感情、身体的特徴を観客にわかりやすく伝えることができます。
このショットでは、登場人物が画面の中央に配置され、上から下まで全身が収まることが基本です。人物が動く場合でも、その動きを余すことなく捉えることができるため、アクションシーンやダンス、走るシーンなどでよく使われます。また、キャラクターが他の登場人物や環境との相互作用を示す場面にも有効です。
フルショットでは、画面内に人物全身が収まるため、人物とその周囲の環境の関係を示すのに効果的です。ただし、ロングショットやエクストリームロングショットとは異なり、フルショットは人物が画面の中央に収まり、全身がしっかり映るのが特徴です。アクション映画やダンスシーンで使われることが多いのは、このフルショットが人物の動きを鮮明に捉えるからです。
さらに、フルショットは単に人物の全身を映すだけでなく、キャラクターの動きや身体的表現を強調するために用いられます。たとえば、キャラクターが感情的に揺れ動くシーンで、フルショットを使うと、身振り手振りや体の動きに重点を置き、観客にその内面的な変化を伝えることができます。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)より。
ソー、グルート、ロケットが並んで画面中央に立つ姿は、全身のシルエットがはっきりと描かれ、背景の戦場と相まってソーの降臨を強烈に印象づけます。キャラクターのパワーバランス、チームの存在感、そして画面全体のスケール感が、このワンカットに凝縮されています。
とにかくよく使われる!ミディアムショット
ミディアムショットは、人物を腰から上、または膝から上で捉えるショットで、観客にキャラクターの表情や感情を理解させつつ、その人物と周囲の環境との関係性も表現することができます。このショットは映画やテレビで本当に頻繁に使われるショットその理由は、視覚的なバランスがとても良いから。キャラクターの表情や感情をしっかり捉えながら、周囲の環境や状況も視覚的に伝えることができるという点で、とてもバランスがいいからです。例えば、対話シーンや感情的な瞬間にとても効果的で、観客がキャラクターとの距離を感じることなく、感情の変化を追いやすいというメリットがあります。
また、ミディアムショットはカメラの距離感として非常に扱いやすく、視覚的に心地よいバランスが取れているので、物語を進めながら観客の集中力を切らさずにキャラクターと環境をつなげることができる点が魅力的です。どんなジャンルでもよく見かけるショットだから、映画の中でも頻繁に登場します。
このショットは、リズムとテンポを維持するために非常に便利です。ショットがあまりにも広すぎると、物語の進行が遅く感じられることがあるし、逆にあまりにも近すぎると、視覚的に窮屈な印象を与えてしまいます。ミディアムショットはそのバランスが良く、キャラクターと観客との「距離感」を保ちながら、スムーズに物語が進行する感じを作れます。
さらに、登場人物同士の会話や関係性を描くのにぴったりです。例えば、二人のキャラクターがミディアムショットで捉えられている(これはTwo shot Medium Shotと呼ばれます)と、お互いの表情や視線、ジェスチャーなどがはっきりと見えるから、視覚的にキャラクター同士の関係が明確になります。観客はキャラクターの心情を読み取りやすく、物語に感情移入しやすくなります。

『ラ・ラ・ランド』(2016)より。
このシーンでは、ミディアムショットを使って、ふたりの微妙な感情の揺れと距離感を繊細に表現しています。観客はふたりの関係の変化を、表情や間を通して自然に感じ取ることができます。背景の夜景と合わせて、ビジュアル的にも美しく、ショットの効果を際立たせています。
感情に迫るクローズアップショット
クローズアップショット(Close-Up)は、映画の中でもっとも感情に寄り添うショットのひとつです。人物の顔を画面いっぱいに映すことで、わずかな表情の変化や目の動き、呼吸の乱れまで映し出し、観客をキャラクターの内面世界へと引き込むことができます。
通常、首から上あたりをフレームに収め、画面の60〜80%が顔で占められるのが一般的。背景は浅い被写界深度によってボケていることが多く、視線は自然と人物に集中する。結果として、観客はキャラクターの感情と一対一で向き合うような、親密な距離感を味わうことができます。
恋愛映画の告白の瞬間、サスペンス映画の恐怖の気づき、あるいは静かな涙をこらえる場面など、特に感情のピークや、心理的な緊張が高まる場面でよく使われます。キャラクターの心の揺れを「言葉なし」で伝える手段として、非常に効果的です。
クローズアップは、セリフ以上に物語を語るショットです。観客の心に残る名シーンの多くが、実はこの「顔のアップ」によって作られていることも少なくありません。キャラクターの心の中にカメラが入り込んだような感覚を与え、ストーリーの密度を一気に高めてくれます。

『ジョーカー』(2019)より。
映画の中でも象徴的なシーンのひとつが、主人公アーサー・フレックが鏡の前で無理やり笑顔を作ろうとするこのカットです。顔全体を画面いっぱいに捉えたクローズアップによって、彼の表情の細かな変化がはっきりと映し出されています。ここでは、セリフに頼らずともキャラクターの内面を観客に「直接」伝えています。クローズアップは、こうした微細な感情表現をすくい取るための最も強力な手段の一つです。とくに『ジョーカー』のようなキャラクター主導の作品では、観客の共感を生む上で欠かせないショットと言えます。
肩越しに描く関係性:オーバー・ザ・ショルダーショット
映画やドラマの会話シーンで頻繁に使われるショット、それが「オーバー・ザ・ショルダー(OTS)」ショットです。名前の通り、あるキャラクターの肩越しに、相手の顔や動きを映す構図で、主に会話のやりとりや心理的距離を描くために使われます。
OTSショットは観客に、まるで自分がそのキャラクターの隣で会話を聞いているような感覚を与えるのがポイント。臨場感や没入感を高める効果があるのも特徴です。

『ストレンジャーシングス』(2016)より。
この場面では、エルの肩越しにマイクを捉えていますが、オーバー・ザ・ショルダーといっても肩が手であったり体の一部になることもあります。
180度ルールとの関係
OTSショットを使う際に重要なのが180度ルールです。これは会話シーンでカメラを移動させる際、カメラが仮想的なライン(180度ライン)を越えないようにするルールです。このルールを守ることで、登場人物の位置関係が視覚的に分かりやすくなり、観客が混乱することを防げます。
例えば、会話シーンで登場人物を左側または右側から撮影している場合、カメラは180度ラインを越えないようにしないと、視覚的に「逆転」したように見えることがあります。OTSショットでも、このルールを守ることで、視覚的な一貫性が保たれ、観客はスムーズに物語に集中できます。

少しわかりにくいですが、この図で言うと、赤い点線が「180度ルール」の境界線です。カメラはこの点線上であれば、どこに設置してもOKです。でも、一度このラインを越えて反対側にカメラを置いてしまうと、観客にとってキャラクターの位置関係が逆転して見えてしまい、混乱を招きます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
映画ではカメラがどう切り取るかで、感情の伝わり方はまったく変わます。普段何気なく観ていたシーンも、これがメディアムショットで、ロングショットで、、、といった視点から見てみると、新しい楽しみ方ができるかもしれません。
映像づくりの第一歩として、映画をもっと楽しむためにも、ぜひショットの使い方を意識して映画を観てみてください!